138cmの世界

138cmで生きる日々を、徒然と

梅、くれない

梅一輪 一輪ほどの 暖かさ  服部嵐雪

気まぐれに、その時その時のにわか具合で、和歌や俳句が好きで。
でもこの俳句ほど、何度も思い返して、何度も思い出す詩はない。

この俳句は、読む人に寄って、脳裏に浮かぶ情景は全く違うものになるかも知れない。

私は、この俳句に触れた時、一面真っ白な雪景色の中、
雪に埋もれつ、ぽろりと思わず零れ出たかに咲いている、梅の花を思った。

私の吐く息は、濃く白い。
瞼にちらつく細雪が掛かって、目に入ってしまいそうで、本能的に瞬きしながら、
ぽかん、と、その梅の花を見てる。

どこに、咲く要素があったの?

梅の花は声を出して答えてはくれないけど、
しかして現実、咲く要素がその一輪の梅にはあった。
”咲く要素”を、その梅だけは気づいた。

これほどまでにポジティブな俳句があるかと、
この俳句には相当衝撃を受けた。


そんな話をする気になったのは、
私が見た「君の名は。」の総印象が、「紅梅が一輪咲く、精緻な雪景色」だったから。

新海監督は前から、作品に出会うその時々に、妙に引っかかる、私からの一方的な”縁”があって。
なので、ある程度知っていたし、「君の名は。」を観に行こうという気になったのも、
「新海監督作品」だからだ。

でも、正直、私は過去作品だったり、新海監督の事を途轍もなく誤解していて。
センチメタリストをとことん極める…!!
畳み掛ける切なさに、救い?運命の赤い糸?
そんな奇跡、そうそうある訳ない。
奇跡を求める気持ちは切ない程に理解できても、
そんな夢見がちな事は、現実にはそう起きない。
って事を描いている作品で、監督なんだと思ってた。
物凄く壮大に、幻想的で鮮やかな妄想世界を、思う丈描きつつ、
しかして同時に、それを相殺してしまう程、同じ温度でリアリストで。
感傷的な事を描かせたら群を抜く監督だ…、と、思ってた。

なので、どちらかと言うと苦手だったりして(笑)
君の名は。」はそういう意味でも、相当ハラハラして見た事も、
こんなに嵌ってしまった理由なのかも知れない。

何度も思った。

ここまで描いておいて、今度もセンチメンタルなリアリスト全うしちゃうなら、
もうもうもう、今後は本当に…!本当に観ないから…!!!
今度こそ私だって懲りるから…!!

…と。

本気で願えば、案外叶っちゃうのも、現実のひとつなんだな。


そして、「君の名は。」を観終わった一度目の時、
漸くの漸くの、漸くに、監督や過去作品に何だか偏見持ってる自分に気づき、
監督や作品の事を知ろうと思って、
特番を漁ったり、インタビューや、他の方のレビュー(賛否どちらも)を読み漁り。

ちなみに映画も、ちょっと特殊な運が味方して、リピートも6回目に至り。

その結果、新海監督の作品世界の総印象というか、一貫したテーマというものを上げるなら、
「梅咲く精緻な雪景色」だという結論に至った。

新海監督自身、今までの作品が
「そう描いたつもりは全くなかったのに、一般的にはバッドエンドで捉えられていて、
 そこ(描いたものが伝わらなかった)は自分の腕の無さだと思っていた」
と、何かでぽろっと話していらっしゃって、
私としては
「何言ってるのこの人…!!そこ狙ってたんじゃないのに、

 あの過去作品群になるてどういう事?!」
って盛大なツッコミが湧いたのだけど…。

あんまり素な様子で仰っていたのと、
正直、「ハッピーエンドじゃないと嫌!」な私が、
どー…しても嫌いになりきれなかった、妙な感覚も相俟って。

「なんかやっぱり、盛大な誤解をしてるかも知れない、私」と思った時に、
あの梅の句が浮かんだ訳で…。

なかなかに、衝撃的な腑への落ち方だったなぁ。

多分、新海監督は今までもずっと、「雪中の一輪の梅」っていう、
”根深いポジティブ”みたいな事を、描いていたのかも知れないな、と。

ただ、普通、「雪中の一輪の梅」の、”ポジティブさ”を描く時、
その梅を切り取って大きく描くと思う。

でも、新海監督はそうじゃなくて。何より周囲の雪の方をめちゃくちゃ精緻に

描くんじゃないか。
梅のポジティブの”根深さ”を際立たせるために、雪景色の方をめちゃくちゃリアルに、
見れば思わず、両肩抱いてブルルッと震えちゃうぐらいに、とにかく緻密に描ききる。

それが、センチメンタリストで、リアリストで、
バッドエンドに”見える”理由だったのかも、と。

でも。今までも確かに、その景色の中で、梅一輪が咲いていたんだと思う。
けざやかなまでに、真っ白に。白梅が。

でもね…っ。
雪景色が綺麗すぎてもう、その雪の描きようったらまさに圧巻の一言で、
梅を探し当てるまでに到れないよ監督…!!っていう(笑)

今回の「君の名は。」、だって、溌剌としたストーリーだったのに、
雪の描き方(比喩です)は相当だったと、個人的に思ったもんね…。
まじかよ、今このタイミングでかよ!!みたいな冷厳さといったら……。
あれは新海監督だからこそ描ける部分だと本当に思う。

そんな雪景色の中。
君の名は。」の梅は、鮮やかな紅だったんじゃないか。

私がもし誰かに、ヒットした理由は?って訊かれたら、そう答える。
今まで、確かに描かれていた白梅を、「君の名は。」では、紅梅にしたから、って。

雪は変わらず、緻密で精緻で、絵なのに、触れたら冷たさを感じそうな程で。
でも、その緻密さの中で、くっきりと紅いその梅に、視線はブレず引き寄せられる。

道に迷った夜の、北極星みたいな、紅梅。

だから、雪景色の寒さや冷厳な美しさを、どこか、安心してめいっぱい楽しめる、

というか…。
雪景色の描写に凍えて、もう春なんて一生来ないんじゃないかって不安になる時に、
その紅梅がぽろっと目に入って、

「ううん、大丈夫、もうすでに、春のかけらはここに」って、
言って貰えるみたい、な…。

だから、ライトな楽しみ方も、何度もリピして、深く浸る楽しみ方も出来るというか、
”しやすくなってる”というか。

そして、”雪の描き方”に以前からめちゃくちゃ惹かれてた人は、
「なんで紅梅とか描いちゃうかなぁ…。雪がぼやけるじゃん。
 貴方の腕の見せ所や醍醐味は雪景色にある訳で。貴方は雪の匠なのでは?」
っていう反応になってるんじゃないかとも推測していたり…。

あと、6回目にして、漸く発見した事もあったりするのも、魅力のひとつだなぁ。
細かい描き込みは、背景だけじゃないってところが、

発見欲をめちゃくちゃ刺激してくれる。
好き。

そして、監督は自分で、梅を紅にするって決めたところが、

何より惚れるポイントです。